雨どい屋上ビオトープを作る⑧ ビオトープとヤナギ

雨どい屋上ビオトープを作る⑧ ビオトープとヤナギ

 

古来から日本で治水に利用された柳枝工。ヤナギの強い生命力を生かした工法で、生態系も非常に豊かになり、一石二鳥だ(画:趣味千編集部)

 ビオトープとヤナギ ビオトープを作るときに、地元で採った水草や野草を植える人は多くいると思います。それはそれで実に楽しいものでありますが、樹木を植えるのもお勧め。多くの虫が集まってくるし、野鳥も翼を休め、とても生態系が豊かになります。

ヤナギの伝説

導入直後のヤナギはいったん全ての葉を振り落とし、枯れ木のようになる。しかし数日で芽吹き始める(撮影:趣味千編集部)

 銀座などに街路樹と植えられているヤナギは、長くしだれた枝が風にゆらぎ、涼しげで風流な雰囲気を作ってくれます。一方、四谷怪談などを思い出し、お岩さん(享年21)のような幽霊が樹下に現れるようなイメージを持つ方もおられるかも知れません。

 しかしヤナギは古代から霊木とされ、縁起の良い木とされてきました。楊枝に加工されたり、編んで行李にされたりと、日常生活には欠かせない木材でした。

 大変生命力の強い木で、大分県の姫島には、お姫様がヤナギの楊枝を天地逆さまに土に挿したのに、そのまま根付いたという、面白い伝説も残っています。

柳の生えている場所

切り口周辺は傷を覆うように、特に芽が出やすい。いろいろなところから芽が出るので、形にしたいなら剪定するといい(撮影:趣味千編集部)

 

 柳は河川敷など、水辺に多く生えています。河川敷はかつて、生える草が牛馬の飼い葉となったり、葦が建材となったりしたため、大変な資源の宝庫でした。しかし現在では全くといっていいほど利用されなくなったため、河川敷にはヤナギやナンキンハゼなどが生え放題となり、しばしば行政による除去作業が行われる状態です。

 そうしたことなので、特段管理されていないような河川敷(注:土手ではない)のヤナギであれば、一枝ほどなら切って持って帰っても良さそうですが、杓子定規に言えば採取は法律で禁止されています。

古来は土木資材であった

小規模なビオトープでは水草や野草を用いることが多いが、樹木を植えると一気に生態系が豊かになる。流木を並べるよりはヤナギを植えた方が面白い(撮影:趣味千編集部)

 柳の生命力の強さは強靱で、しばしば治水工事にも使われました。竹や針金で編んだ袋に石を積めた「蛇篭」と呼ばれる資材や、川の土手の石垣にヤナギの枝を植え、しっかり根を張らせることで、土手を強化するという方法です。こうした工法を「柳枝工」と呼びます。

 コンクリートで固めた土手と違い、様々な生物が集まってくるため、すばらしく豊かな生態系が出来ます。 アフガニスタンの人々を記録的干ばつから救った故中村哲医師も、水路を建設する工事の中で、柳枝工を用いたのは、よく知られた話です。

魚付林の役目

爆発的に根を伸ばすヤナギ。根と根の間は稚魚や微生物、バクテリアの重要な住み処となる(撮影:趣味千編集部)

 

 ヤナギは枝を水に挿しておくと、ぐんぐん大きくなります。雨どい小川ビオトープに植えた柳も新しい芽を次々と出し、水中に赤い根を張り巡らしています。こうした根の周りには無数のバクテリアや微生物が繁殖するため、水質浄化にももちろん役立ちますが、ヤナギ自体にもアブラムシなどの昆虫が付き、雨の度に水面に落ちてきてメダカの餌となるため、北海道などで見られる「魚付林」と同じような役目を果たします。「魚付林」はサケ科の魚の稚魚などにとって大切な餌の供給源です。

ヤナギを植えて学べること

ヤナギの根は赤い。もし伸びすぎて水面を覆うようであれば、ハサミなどで切っても全く樹勢は衰えない(撮影:趣味千編集部)

 光合成が発見されるまで、植物は根に口があり、土を食べて成長していると信じられていました。しかしヤン・ン・ヘルモントという学者が、水だけでヤナギを育て、のちに土を測ったがほとんど土は減っていなかったという実験をし、植物は土を食べている訳ではないということを証明しました。

 常に雨により栄養分が海に流れてしまう河川と違い、ビオトープは雨でオーバーフローしない限り、養分はビオトープ内にたまり続けます(本来のビオトープは餌やりも水替えもしません)。この養分というのはヤナギの枯れ葉であり、枯れた水草であり、いずれも太陽光の蓄積です。 

 分解される段階でガスとなって空中に出て行きますが、次第にこうした養分が蓄積し、ビオトープは富栄養化していきます。柳を植えたらビオトープに落ちた落ち葉がどう分解され、何の餌になり、水がどう変化していくか、長期間観察すると面白いでしょう。

 

 

HOM

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